技術資料Vol.2:RCFとは? ~リフラクトリーセラミックファイバーについて~
今回のブログでは、リフラクトリーセラミックファイバー(RCF)にフォーカスしてまとめていく。
RCFとは、リフラクトリーセラミックファイバー(Refractory Ceramic Fiber)の略であり、アルミナ(Al2O3)とシリカ(SiO2)を主成分とした非晶質の人造鉱物繊維のことを指し、そのほとんどは工業炉などで用いる高温用の断熱材として利用されている。非晶質のため耐熱性の高いアルミナはそれほど多く含有しておらず、アルミナ含有量は60%以下である。残りの成分については、基本的にはシリカであるが、耐熱性を向上させるためにジルコニア(ZrO2)やクロミア(Cr2O3)を含有している場合もある。最高使用温度は1260~1400℃程度であるが、熱による劣化が著しいため、最高使用温度から100~200℃低い温度域を常用温度に設定してあることが多い。市場に最も出回っているものは最高使用温度が1260℃の製品であり、平成20年くらいまでの工業炉(最高使用温度1200℃まで)には、ほとんどにこの1260℃グレードの製品が使われていた。
A製品 | B製品 | C製品 | |
最高使用温度(℃) | 1260℃ | 1400℃ | 1450℃ |
常用温度(℃) | 1000-1100℃ | 1150-1250℃ | 1200-1300℃ |
化学成分 Al2O3 SiO2 ZrO2 | 48% 52% ‐ | 57% 43% ‐ | 53% 30% 16% |
RCFの長所
RCFの長所としては、安価であり、機械的な性質に優れることが挙げられる。耐熱性の高いアルミナがやや少ないことから、2000℃程度で溶融させることができ、溶融体の粘度を調整して細流として取出し、高圧空気などで吹き飛ばして繊維化する大量生産技術『スピニング法』が適用できるからである。この製造法は大量生産に向いているだけでなく、細く柔軟なファイバーを形成できることから、このファイバーを成形した製品は機械的強度に優れている。そのため、摩耗や耐風による物理的な劣化に比較的強く、切断や穴あけなどの加工もしやすいハンドリングの良さもある。
スピニング法についての補足
スピニング法はRCFを製造する上で欠かせない重要な技術である。しかし、溶融した細流を高圧空気などで吹き飛ばす過程で完全に繊維化するわけではないことに注意する必要がある。繊維化しなかった物質は表面張力によってショットと呼ばれる球状化した形状になる。このショットはセラミックファイバー成形体の嵩密度を増大させてしまい、断熱材としての断熱性能を低下させてしまう。そのため、ショット含有率には規格が設けられており、ショットをなるべく取り除いた高断熱の製品も販売されている。
RCFの短所
RCFの最大の短所として、健康リスクが存在する点が挙げられる。しかし、この点に関しては後述でさらに詳しく述べるため、ここでは健康リスク以外の短所についてまとめる。健康リスク以外の短所としては、耐食性がやや低いことと、熱劣化による体積収縮が大きいことが挙げられる。
まず耐食性についてであるが、これは繊維成形体の宿命ともいえ、多孔体のため表面積が大きく、密に詰まったなる躯体に比べ反応性が高くなってしまう。結果、外部からの化学物質によって腐食されやすくなってしまう。このイメージとしては、鉄の塊は基本燃えないが、鉄粉は燃えることを想像していただきたい。RCFは化学的に極めて安定なアルミナとシリカから成っているが、それでも使用する温度域が1000℃以上の高温であるため、鉄鋼業界では鉄粉やスケール、窯業では釉薬などといったものと反応してしまう。この対策としてはRCF表面にコーティングを施すといった事しかなく、腐食させないためには外部から化学物質を如何に接触させないかが重要となる。
次に熱劣化による体積収縮について述べる。こちらについても繊維成形体の宿命ともいえる問題であるが、非晶質なファイバーで構成させるRCF製品は特に顕著に示す。非晶質とは特定の結晶構造を持たないガラスのような状態であるが、これは熱が加わることによって結晶化する。ダイヤモンドに代表される単結晶になれば問題ないが、陶磁器のような小さな結晶の集合体である多結晶体になるため、析出した結晶のバラツキによって繊維の形状が歪み、その歪みが絡み合った繊維を引っ張り合って成形体の収縮を招く。製品の体積収縮は断熱材の隙間を発生させることと同義であり、断熱空間の断熱性能を低下させる問題となる。そのため、セラミックファイバー製品は体積収縮を厳しく管理されており、この収縮度合いで使用温度を決めている。一般的に24時間加熱した時に収縮率が3%以下になる最大温度を最高使用温度とする場合が多い。また、このセラミックファイバーの収縮を抑制する技術は未だに実用化されておらず、基本的にはより高いグレードの製品を用いるしかないのが現状である。
RCFの安全問題
発がん性の知られる天然鉱物繊維の石綿とは全く異なる材料であるが、繊維径が比較的細いことと、化学的に安定で生体吸収性がほとんどないことから、発がん性が疑われている。そのため、動物実験などによって世界中で調査が行われており、IARC(国際がん研究機関)によって吸入による発がん性の可能性がある物質として、グループ2B(ヒトに対する発癌性が疑われる)に位置付けられている。また、世界に先駆けて日本では、厚生労働省が2015年11月から特定化学物質に含めており、業務で使用している場合は事業者が定期的に健康診断を受けさせなければならないと定めている。この業務とはRCFを加工することを指すため、一般的なユーザーはあまり関係ないが、健康リスクを考えて使用を控える企業もいる。もし、現場でこのRCF製品を加工しなければならないとなった時には、吸引防止のマスクだけでなく、十分に湿らせて飛散を防止するなど、適切な処置を施す必要がある。
今回のブログではRCFに注目し、長所や短所、安全性についてまとめた。次回はアルミナファイバー(AF)について深堀した話題を提供していくため、ぜひ参考にしていただきたい。