耐火物とは Vol. 10~脆性と延性
本稿では「脆性(ぜいせい)と延性(えんせい)」と題し、耐火物(構造体)に作用した応力による破壊についてわかりやすい視点で説明します。
脆性と延性、この両者も対義語の関係にあります。延性は靭性(じんせい)という場合もあります。脆性と延性は前回Vol.9で話題にした弾性と塑性にリンクします。これらは構造体にある外力が作用し、それに応じて構造体内部に発生する応力が構造体を破壊させるときの様式です。
言葉通りに端的にいうと、脆性は“もろい”性質のことをいい、ひたすら応力に耐えながら破壊する瞬間にバキッと折れます。応力に耐えている間、構造体の変位(サイズや距離)はほとんどありません。脆性の性質をもつ構造体は一般的に変位せずに高い応力で破壊が起こります。耐火物やセラミックスはたいてい脆性の構造体なので、大きな外力に耐えられる性能があります。図1に脆性材料の荷重と変位の関係とそれを計測する一般的な3点曲げ試験の試験構成を示します。前述したように横軸の変位量が大きくならずに、荷重が急上昇することがわかります。ある荷重まで到達すると構造体は応力に負けて破壊される点が破断を示しています。前回の話題とリンクすると、破断するまでの間は弾性域(荷重を除いても破壊されない)にあると言えます。逆にいうと弾性域での破壊が脆性破壊といえます。なぜ、耐火物やセラミックスは脆性破壊が生じるのでしょうか。これは耐火物やセラミックスの組織形態が関係します。耐火物やセラミックスは原料となる粉粒体あるいはバインダー等を混錬し、加圧して成形され、焼成されます。焼成体の組織中には粉末同士の焼結や、バインダーの融着による結合が生まれます。焼結や結合による組織が成り立つ構造体に荷重を与えると、結合が切れるタイミングがきっかけとなって構造体全体の破壊に直結します。

図1
一方で、延性は言葉通りに“のびる”性質があります。のびるといっても応力を受け流しながら破壊するまでジワジワと持ちこたえます。まるで、相撲の強い横綱の取り口のような様をいいます。実際に、延性の性質をもつ構造体は一般的に大きな変位が起こります。脆性材料よりも応力は高くならずに破壊が起こります。まさに横綱相撲です。言葉ではわかりにくいため、図2をもちいて説明します。この図、前回の話題に出た塑性変形で観測される現象とほとんど同じです。つまり、延性が発現すると弾性域から塑性域に遷移することが確実です。遷移点である降伏点において、荷重がほとんど増加しない受け流しが始まります。このときの3点曲げ試験の状況は、クロスヘッド(押し治具)でいくら押しても材料が曲がるだけで破壊されません。曲がりの限界に到達したタイミングで破壊されます。弾性域での破壊が脆性破壊である反面、塑性域まで達したときに延性破壊が起こるといえます。延性材料は金属、プラスチックなどにみられます。このような材料は組成が単一であることと、耐火物等との決定的な違いは複合体ではないことです。金属の組織形態は金属結合が無限に並んだ状態で、それに荷重をかけて金属結合が切れたとしても、別の結合が生まれる転位が起こります。高分子が絡んだプラスチックの組織構造も分子間結合が解けても、結合組み換えが起こって構造全体で強度を維持できます。図には便宜上破壊する点を記載していますが、起こらない場合もあります。

図2
脆性と延性が耐火物においてどのような影響を及ぼすのでしょうか。高温で操業する耐火物にとって温度上昇による形状の変形は大きなポイントです。脆性材料である耐火物は温度の昇降によって割れやき裂が発生(スポーリング性)しやすくなります。伸び縮みしづらい組織形態をもつ耐火物は、温度上昇と下降による組織変化に追従することが不得意です。高温から急に温度を冷ますと耐火物の構造にき裂や割れが発生しやすくなり、耐スポーリング性の弱さが露呈します。逆に、金属材料は加熱した状態から急冷してもき裂が生じたり、割れたりすることはほとんどありません。加熱で伸びた状態から冷却されて縮む過程で組織形態が崩壊することがないからです。
以上のことから、脆性と延性は耐火物の耐スポーリング性、ファインセラミックスの破壊靭性と密接に関係していることがおわかりいただけます。


