耐火物とは Vol. 14~安定化ジルコニア
本稿では耐火物原料として有用、かつ機能性セラミックス原料としても優秀な安定化ジルコニアについて説明します。
ジルコニアの結晶構造 ジルコニア(ZrO2)は表1に示す単斜晶、正方晶、立方晶、3種の結晶構造をもつことが知られています。3種の結晶構造は温度によって変形します(これを結晶相転移と言います)。室温では単斜晶が安定な結晶構造であり、約1170℃で正方晶に相転移し、さらに約2370℃で立方晶に相転移します。結晶相転移することにともなって結晶の単位格子のa軸, b軸, c軸の長さ、角度βが少しずつ変化していることがわかります。簡単に言うと、室温で歪んだ構造が加熱されていくと正方形構造に整っていきます。
表1

結晶構造が変化することで結晶格子の長さや傾きが変化する性質は、耐火物や構造用セラミックスに適用する場合に不利に働きます。以前、熱膨張の回で話したように、低温から高温への加熱過程やその逆の冷却過程において、構造物の寸法が少しずつ変わってしまうためです。
図1に単斜晶と立方晶のジルコニアの熱膨張曲線を示します。単斜晶(Monoclinic)のジルコニアの熱膨張曲線は加熱過程において1000℃付近で急激に下降します。これは加熱により収縮していることを示しています。その後、1100℃を超えると再び上昇しています。これは膨張していることを示しています。加熱過程だけで膨張⇒収縮⇒膨張を繰り返します。

図1
この後、冷却していくと収縮しながら900℃付近から急激な膨張が起こることがわかります。さらに、800℃付近からまた収縮することがわかります。冷却過程でも収縮⇒膨張⇒収縮を繰り返すことがわかります。膨張と収縮が交互に繰り返されることは、表1に示す単斜晶と正方晶の2つの結晶構造を転移すること(相変態という)に由来しています。この熱膨張率測定は、加熱過程と冷却過程の曲線が重ならないことと、加熱開始時と冷却終了時の熱膨張率が原点に収束していることがわかります。このような変化をヒステリシスと呼んでいます。
ジルコニアはこのような熱膨張挙動を示すため、高温下での温度変化によって寸法変化を起こし、割れやき裂などの構造安定性に問題が起こることが知られています。高耐食性、高強度のジルコニアを使いこなすためには、温度変化による安定性を高める必要があります。その方法として、異種元素の化合物のドーピングによる相転移を抑制する構造安定化の方法が採られます。
安定化とは 2価や3価の金属イオンを含む酸化物をジルコニアに添加する手法が採られます。これを安定化と言います。結晶構造の相転移を完全に起こらなくさせたジルコニアを安定化ジルコニア(Fully Stabilized Zirconia: FSZ)といいます。添加剤となる2価または3価の金属酸化物は安定化剤といい、カルシア(CaO)、マグネシア(MgO)、イットリア(Y2O3)が安定化剤の3本柱として有用です。図1の100%-cubicに示すように、完全に安定化させた立方晶ジルコニアの熱膨張曲線は、加熱と冷却の過程が完全に一致して相転移しないことがわかります。カルシアやマグネシアが安定化剤のジルコニアは耐火物等のセラミックス原料に使用されています。一方、イットリアが安定化剤であるジルコニア(Yttria-Stabilized Zirconia: YSZ)は、とりわけYttria-Stabilized Tetragonal Zirconia Polycrystal, Y-TZP:イットリア安定化正方晶ジルコニア多結晶体として、高い強度と靭性を持ち歯科材料、人工関節、産業機器など、幅広い分野で利用されています。また、イオン伝導性を利用した導電性セラミックスや個体型燃料電池材料、人工ダイヤモンドなどの用途があります。
安定化剤の添加量を下げることによってジルコニアの安定化を部分的に制御した“部分安定化ジルコニア(Partially Stabilized Zirconia: PSZ)”も市場に流通しています。添加量に応じて異なる安定化率をもつジルコニアがあります。
近年、4価金属酸化物であるセリア(CeO2:二酸化セリウム)を安定化剤に使用することで、触媒担体としてのジルコニアの利用価値が高まっています。
なぜ安定化される? 安定化剤によるジルコニアの結晶構造が安定化する機構はよくわかっていないのが現状です。安定化剤によって立方晶の状態を形成したジルコニアは、本当の意味で安定な立方晶ではなく、「準安定構造:meta-stable」(=最安定状態に準ずる)の状態を指しているようです。その理由は結晶転移が止まっているのではなく、じわじわ転移が進んでいて見かけ上、安定化されていることがわかっているようです。


