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耐火物とは Vol. 8~耐火物原料その2:マグネシア

本稿では原料その2と題し、耐火物の原料として幅広くもちいられているマグネシア(MgO、酸化マグネシウム)の原料および性質について説明します。

原料 マグネシアはそれ単独で天然に存在しない化合物です(アルミナと同様)。マグネシウム(Mg)を含有する代表的な天然鉱物はマグネサイト鉱です。図1に示すように、不純物を含むと着色した状態(左写真:鉄を含むと赤茶)、一方で純度が高くなると透明(右写真)あるいは白色の状態で産出します。鉱物和名は菱苦土石(りょうくどせき)といいます。“菱”とはとがった形状をいい、“苦土石”はまさに舐めると苦い(肥料に使う“苦土”石灰と同じ意味)に由来しています。

図1

マグネサイトの化学組成はMgCO3で表され、天然で炭酸塩を形成しています。マグネサイトのおもな埋蔵地は中国の東北地方、ロシアのウラル山脈、北朝鮮山岳地域で、これらの地域の埋蔵量は全世界の80%以上になります。その他、アフリカ(ジンバブエ、南アフリカ)、南米(ブラジル)、オーストラリアですが、実際にマグネサイトを生産する国は、圧倒的に中国で、その他にトルコ、ブラジル、ロシアが挙げられます。日本でもかつてマグネサイトを掘り出していましたが、残念ながら現在すべて閉山しています。

製法 マグネシアの製造はどのような方法でしょうか。マグネサイトを利用する場合、つぎの反応式に示すように、炭酸マグネシウム(マグネサイト)を加熱することでCO2の脱離反応(脱炭酸)を利用して製造されています。

脱炭酸反応は約800℃までに完結し、反応後の段階で軽焼マグネシア(軽焼:“やや低温で焼成した”の意)が得られます。軽焼マグネシアを粉砕し、さらに1600℃程度で加熱することで天然由来の重焼マグネシアクリンカー(重焼:“高温で焼成した”の意)が得られます。また、海水からもマグネシアを製造することができます。海水を処理して得られた水酸化マグネシウムを前述した同様の焼成手順を経ることで海水マグネシアクリンカーをつくることができます。そのほかに、アーク溶融法を利用して電気炉で溶融、冷却固化させた電融マグネシアから製造する方法もあります。いずれの方法も塊状のマグネシアを得ることができるので、それを粉砕して粒度選別することによって骨材から粉末まで多種の粒度を揃えることができます。

基本性質 マグネシアの基本性質を表1に示します。結晶系は図2に示すようにNaCl型の立方晶で、Mg原子とO原子は各々6配位構造を形成しています。面心立方構造で原子が充填されることで密度は3.58 g/cm3とそれほど高くありません。特筆すべき点は約2850℃と高い融点です(この要因を後述します)。一方、熱膨張係数は14.7 ppmと大きく、アルミナの7~8 ppmと比較するとその大きさがわかります。そのため耐熱衝撃性が低くなり、温度変化によるき裂やの割れ発生が起こりやすくなります。

表1

図2

高い融点 マグネシアの融点は2852℃、マグネシウムと酸素の軽元素の化合物でありながら、他の酸化物に比べて(ジルコニア:約2715℃、カルシア:約2613℃、アルミナ:2050℃)高いです。皆さんその理由をご存じでしょうか。融点は固体の状態から液体の状態に相変化する温度を指します。融点に到達した物質の結晶構造は、これを形成する原子間の結合が弱くなり、構造が維持できずに崩壊することによって固体から液体になります。このときキーポイントは原子間の結合の強さです。

まず、マグネシアの結晶格子中のMg原子と酸素原子の結合形態はイオン結合であることです。この結合は2価の陽イオンであるMg2+、2価の陰イオンであるO2-で形成され、両者のイオン価数が等価であることです。つまり、Mg-O結合に寄与する電子の位置に偏りがありません。さらに、Mg2+とO2-の各イオン半径の比率(0.44=RMg2+/RO2-)が小さいことが挙げられます(Fajansの規則)。イオン半径比が小さいのでMg-O結合を形成する電子が一方の原子に引き付けられず、互いの原子で共有した状態で結合距離が小さくなります。以上のことから、Mg-O結合はイオン結合でありながら共有結合性が強く現れます。そのため結合距離がやや短く、強い結合が形成されることが高い融点に反映されていると考えられます。

塩基性酸化物 マグネシアはつぎの反応式に示すように水と反応します。

生成物の水酸化マグネシウムはアルカリ性を示すため、マグネシアは塩基性酸化物に分類されます。塩基性であるマグネシアと炭素を複合化したマグネシア-カーボン煉瓦は製鋼用耐火物として真っ先に挙がります。精錬過程において鋼の純度を高めるため、スラグの塩基度が非常に高くなります。塩基性酸化物であるマグネシアは高塩基性のスラグによる侵食を受けにくく、煉瓦の耐スラグ侵食性向上に大きく寄与しました。マグネシア-カーボン煉瓦は製鋼用耐火物として大成功を収め、現在も利用され続けています。

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