耐火物とは Vol. 7-2~原料その1:アルミナ(後編)

本稿は耐火物の原料として幅広くもちいられているアルミナ(Al2O3、酸化アルミニウム)の後編をお送りします。
天然のアルミナ 表題の「天然のアルミナ」は語弊がありますが、あえて表記しました。前編で述べたように、天然にAl2O3の組成をもつ純粋な鉱物は存在しません。図1のような天然鉱物(鉱物名:鋼玉、こうぎょく)は不純物を含んでいます。一方、不純物を含んだアルミナでも図2に示すルビーやサファイアは光り輝くきれいな外観をもち、地球が育んだ宝石となる鉱物です。光り輝くのは単結晶だからです。単結晶とはひとつの結晶が途切れなく大きく成長した状態を表します。身近な例で単結晶を説明すると、かち割り氷に使う氷屋さんの氷です。これは不純物や介在物の少ない水をゆっくり冷やすと透明な氷となります。水の結晶が規則正しく大きく成長したことで割れや歪みのほとんどない状態だからです。グラスで溶けにくい特徴があります。一方、家庭の冷凍庫で製氷すると白くくすんだ氷ができますが、急に冷却したことによって気泡などが抜けきらず、結晶が成長しにくくなるならです。
図1
ルビーの赤色はクロムが極微量混入することで発色します。一方、サファイアの青色は鉄とチタンが極微量混入することで発色します。これらのアルミナ単結晶も工業的に利用されていて、ルビーは赤色レーザー発振子等、サファイアは耐熱ウェハ基板等に利用されています。赤と青が発色する理由もちゃんとありますが、説明が長くなるので別の話題にします。
図2
結晶形態 前述したようにアルミナの鉱物和名“鋼玉”はコランダム(Corundum)と訳されます。アルミナに関していろいろな用語を本稿に記載したので表1に整理しておきます。アルミナに関してこれだけ名称と表記があります。IUPACとは国際純正・応用化学連合(International Union of Pure and Applied Chemistry)の略で、化学に関する国際的な組織です。化学の用語や記号、概念、定義の国際標準化を目的としているため、表中では「酸化アルミニウム」が国際的に標準化された名称です。本稿では「アルミナ」表記に絞ります。
表1
アルミナ(正式な鉱物名はコランダム)の結晶構造を図2(Vol.4の再掲に結晶データを追記)に示します。結晶は六方晶(三方晶)系に属しています。結晶系はこの世に6種類しかありません。図中の緑枠で囲う範囲が結晶単位格子を表しています。同図中のaとcは単位格子のサイズでとくに格子定数といいます。青で示すアルミニウム原子は6個の酸素原子に囲まれた八面体構造を基本として、八面体の稜を共有しながら細密に充填していきます。これを六方細密充填構造といいます。この結晶構造の形は安定であり、アルミナ(コランダム)の高密度かつ高融点の特性に現れています。前述したルビーやサファイアの不純物元素であるクロムまたは鉄やチタンは、結晶構造中のごく一部のAl原子の位置に置き換わっています。
図3
つぎに、表2にアルミナの多形を示します。多形とは同一の化学組成をもちながら結晶構造が異なることを意味します。上述したアルミナはすべてα型のアルミナ(α-アルミナ)について述べています。表中のγ型からχ型の7種のアルミナは水酸化アルミニウム等の水を含む化合物を脱水する過程で生成(一部天然鉱物にも含む)します。脱水が進む過程で複雑な結晶構造の変化が起き、最終形態のα型に落ち着きます。表に記載した結晶系は次のような変化の過程を経ます。無定形や単斜晶系はいびつな結晶構造をとり脱水初期に存在し、正方晶系や立方晶系は脱水中期から終期に、六方晶系はα型に転移する直前にそれぞれ存在します。このような転移過程は最終形態の六方晶系に移行するとともに安定した結晶構造が生成していくことがわかります。
とりわけ、β型は古くから存在するといわれてきましたが、現在では分類上β型のアルミナは存在しません。ただし、慣用的にβ-アルミナということがあり、白色電融アルミナがそれに該当します。製法上ソーダ成分を添加するため、β型にはソーダ(ナトリウム)成分が混入しています。化学組成式がNa2O-11Al2O3からもわかります。
表2
性質 白色または無色の結晶性粉末です。融点が約2050℃で高温大気中でも安定な化合物です。熱伝導率が約25~35W/m・Kと高い。熱膨張係数は7.2 ppm。体積電気抵抗率が1014-15Ω・cm以上で絶縁性を示します。機械強度は曲げ強さが400MPa、ヤング率が3.8×105MPaの高強度で、ビッカーズ硬度も1600HV程度の高硬度です。ほとんどの酸、アルカリと反応しません。耐薬品性が極めて高く、化学的にも安定な物質です。以上のように物理的、化学的に魅力的な性質をもち、アルミナの用途は幅広い業界に存在しています。
工業的利用 天然に産出する美しいものは宝石として使われます。人造単結晶体はレーザー発振子、窓材、MOS-FETのゲート絶縁膜などに用途があります。多結晶体は粉砕、整粒した粉末として利用できることから研磨剤、吸着剤や耐火物原料への用途があり、これらは消費原単位でもっとも多い。多結晶体の粉末を焼き固めた焼結体は半導体パワーモジュール用基板、ポンプ部品、産業用機械の電気機器絶縁部品、精密器械の軸受、圧力センサ用セラミック部品、焼成セッター、粉砕メディアなどへ適用されています。このようにアルミナは数多くの産業界を支えている素材であることがわかります。
表3