耐火物とは Vol. 7-1~耐火物原料その1:アルミナ(前編)

本稿では原料その1と題し、耐火物の原料として幅広くもちいられているアルミナ(Al2O3、酸化アルミニウム)の原料、性質および工業的利用について2回に分けて説明します。
原料 アルミナは単独で天然に存在しない化合物です。このことを知らない方がおられるかと思いますが、それも無理はないでしょう。アルミナの工業利用が進み、それを利用した製品等が流通することで長年業界に浸透した現在、アルミナの原料を疑う必要があまりないからです。では、アルミナの原料とはなにか?それはボーキサイト(bauxite)鉱(写真:図1)です。ボーキサイト、中学社会科の地理で習ったアレです。
図1
ボーキサイト?フランス語っぽく感じた方はすばらしい!フランス人地質学者ピエール・ベルチェが1821年に発見し、図2に示すフランス南部のレ・ボー=ド=プロヴァンス(Les Baux-de-Provence)で発見されました。ボーキサイトの名称は発見場所のボー(Baux)に由来します。
ボーキサイト鉱はラテライト(日本語で紅土)と呼ばれる土壌に存在する天然鉱物です。ラテライトはアルミニウムや鉄の水酸化物を主成分とし、地球の地表約1/3に幅広く分布します。ボーキサイト鉱の資源量は今後数世紀にわたって確保できるほど多く、このことは過日、当記事の番外編でアルミニウムや鉄、ケイ素など大きなクラーク数を端的に示すものです。地球の広範囲に存在するボーキサイト鉱ですが、上位産出国(順不同)はギニア、オーストラリア、ベトナム、ブラジル、ジャマイカ、中国、インドネシアであり、亜熱帯や熱帯に多いです。これらの地域は比較的雨の多い湿潤の土壌域で、ラテライト土壌の有機質などが雨水で流された後に残るボーキサイト鉱が地表付近に現れた状態が多くあります。赤い大地のオーストラリア大陸の映像や写真をみるとイメージしやすく、インドでは赤いラテライト土壌を煉瓦に利用しています。なお、ボーキサイト鉱は日本で産出されません。
図2
製法 アルミナはどのように製造されているのでしょうか。図3は工業的製法であるバイヤー法のフローチャートを示します。バイヤー法はアルミニウムの製造方法ですが、図3はその工程途中にアルミナが生産されるまでの工程を示しています。まず、適当なサイズに揃えたボーキサイト鉱を焙焼して水分や有機物を除去します。焙焼したボーキサイト鉱を細かく粉砕します。粉末を水酸化ナトリウム溶液に投入し加熱撹拌すると、アルミニウム成分が反応してアルミン酸ナトリウムとして溶けだします。この溶液を撹拌しながら溶けなかった不純物を含む細かい粒子を沈殿させてアルミン酸ナトリウム(ソーダ)溶液と分離させます。ちなみに、この沈殿物は赤泥と呼ばれ、鉄、ケイ素、チタン等を含有します。分離したアルミン酸ナトリウム溶液だけを撹拌しながら冷却すると水酸化アルミニウム水和物の白い粉末が沈殿します。水酸化アルミニウム水和物を分離、洗浄して1200℃程度で仮焼することによって水酸化アルミニウム水和物の水和物が脱水されてアルミナの粉末が生成します。この製法は高純度のアルミナ微粉末が得られます。余談ですが、アルミニウム粉末はアルミナ粉末を製造してから電解などさらに数工程を要して生産されます。特殊設備を要する長い製造工程がゆえに、アルミニウムは新規に製造する以外に使用後品のリサイクルがもっとも進んでいる金属です。
図3
一方、アルミナの製法はもう一つあります。前処理したボーキサイト鉱に通電させて、高温で溶解させて製造します。この方法を電融法といいます。電融法は図4に示したアーク溶融法とほぼ同じです。アーク放電により2000℃を超える超高温でボーキサイト鉱を溶解させて冷却時に再結晶化させると、塊状で結晶質のアルミナが得られます。塊状物は粉砕と粒度調整ののち所定の粒度に揃えられるため、多様な粒度のアルミナ粒子が製造されます。このような製法で作られるアルミナを電融アルミナといいます。この工程では粒子の色が白色でアルミナ純度の高いホワイトアルミナ(WAと略される)と、褐色で不純物成分が混じったブラウンアルミナ(BAと略される)も製造され、販売されています。電融アルミナは比較的大きな5mm程度の粒度にも調整できるため、耐火物原料などに多用されています。
図4