耐火物とは Vol. 6~原料に使える元素

本稿は耐火物の原料に目を向け、耐火物の材質に使用可能な元素について解説します。元素といえば周期表、中学、理系であれば高校、大学で必須でしたが、授業で習ったと思い付かれる方も多いと思います。これまで人類が発見している元素はどれだけあるかご存じでしょうか?著者が学生の頃は103個(原子番号103のローレンシウムが最大)でした。2025年現在、その数は118個まで増えています。元素周期表を見出した化学者メンデレーエフ(図1写真)は、論理的に存在できる元素が173個まであると示唆しています。なぜ173までか?と疑問を持たれる方もいらっしゃると思いますが、この疑問を解くには量子力学の知識が必要となります(あえて簡単にいうと、原子中の素粒子が安定に存在できないため:万物すべて生成エネルギー安定を求めます)。なお、天然に存在する元素は原子番号92のウランまでです。番外編~鉄の性質の回で述べましたが、原子番号26の鉄以降の元素がすべて宇宙創生ビッグバン以降の超新星爆発の賜物であると考えるとロマンを感じます。
図1
前置きが長くなりました、本題に移ります。耐火物の主原料に使える元素は結論からいうと非常に少ないです。図2の元素周期表に使える元素に色をつけました。ホウ素、炭素、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、カルシウム、クロム、ジルコニウム。数えても両手に余るたったの8個です。添加剤等の副原料であるチタン、イットリウムを加えても10個という少なさ。なぜ数えられるだけの元素しか使えないのか?その理由は高温環境での耐火性、鉄に濡れにくい、資源として豊富である、原料価格、の共通項を満たす元素に集約した結果です。このなかで例外の元素はクロムとジルコニウムです。これら元素の資源量はほかに比べると非常に少ないことと、価格が非常に高いことです。しかしながら、耐火物原料として使用されます。クロムとジルコニウムは耐食性が非常に高く、コスト高であってもパフォーマンスのよい原料だからです。
図2
酸素を数えていないというご指摘があると思いますが、そのとおりです。ただ、ほとんどの耐火物原料が金属酸化物であるため、酸素はあえて除外しています。実際に使用される酸化物形態での表記を表1にまとめました。酸化物の名称は酸化○○となり、たとえば、マグネシウムは酸化マグネシウムとなり、カッコ内のマグネシアは昔からの慣用名を記しました。主要な酸化物は慣用名をもち、その名称に馴染みのある方が多いと思います。たとえば、aluminum(アルミニウム)は語尾がaに変化して、alumina(アルミナ)となります。この慣用名の表記は学術論文に記載しても通用します。西洋の女性名の語尾も同じようにaがつくのと同じ意味合いなのかもしれません。
表1
上述した単一元素の酸化物以外にも、複合酸化物が耐火物原料として用いられている。代表的な化合物を表2に示す。表2に示した名称はすべて天然鉱物の名称がそのまま原料名として流通しています。話の流れ上、表1の各酸化物同士が反応した結果、生成した化合物のように思われるが、実際はその逆です。鉱物を精製して高純度化したものが表1に記載の酸化物となります。スピネルは宝石の名称で一般的にも馴染みあります。ムライトはイギリスのスコットランド地方のマル島で発見されたことから名づけられました。日本語はムライトですが、英語発音はマライトです。ドロマイトはイタリアのドロミーティ地方で発見されたことで名づけられました。製鋼工程でマグネシアをもちいるきっかけとなった鉱物です。クロム鉄鉱は特殊鋼向けの精錬炉用耐火物にもちいられ、スピネルと同じ化合物形態です。ジルコンはもっとも古い宝石で、ダイヤモンドの模造品にもなる古代ペルシャを起源とします。主な産地はオーストラリア、南アフリカ、スリランカで、工業的にジルコンサンドを利用しています。ジルコンサンドからジルコニア、シリカフラワーのなどが生産されます。
表2
最後に、炭素、炭化物について説明します。炭素はそのまま単体で利用されている。天然鉱物として黒鉛が真っ先に挙げられ、マグネシアと組み合わせたマグネシア―カーボン系の転炉用れんがなどやジルコニアと組み合わせたジルコニア―カーボン系の浸漬ノズルが有名です。炭素はこのほかに合成原料としてカーボンブラックがあり、鋳造用耐火物に適用されて大きな成果を上げています。また、炭化物は炭化ホウ素や炭化ケイ素が適用されています。炭化ホウ素はカーボン系耐火物の適量添加による機能性添加剤として、一方、炭化ケイ素は混銑車用に代表されるアルミナ―SiC-カーボン系耐火物の副原料として利用されています。
以上のように、数ある元素の中で耐火物原料に適用されている化合物原料の元素は非常に少数です。しかしながら、いまだ注目されていない化合物系も存在します。新規工業原料の機能性を利用して工業的にさらに発展させるには、サプライヤーからの素材提案や実例紹介だけでなく、新規素材を試験して実用レベルに押し上げるためのユーザー側の協力も必要です。これからの時代、一体となった開発が必要だと感じています。