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耐火物とは Vol. 12~炉内測温の萌芽

本稿では「炉内温度の計測」と題し、耐火物を製造する焼成炉の温度計測の歴史について説明します。

昨今、様々な科学データの計測あるいは解析の手法が生み出されて工業分野でも研究開発だけでなく、製造現場のオンサイトで計測することで製造、検査のハイスループットが進み、生産工程の時短が実現され始めています。とりわけ温度の計測に関して、わずか150~200年前まではほとんど存在しませんでした。いまでこそ、「この部分の温度が知りたい」「温度計を差してみよう」で考えることなく簡単に済ませられます。熱電対温度計、放射温度計など今日の急激な温度計測技術の進歩の速さに驚く一方で、そのような温度計がなかった時代にどうやって1000℃以上の高い温度を見定めていたのでしょうか?

温度計測の歴史を文献や成書にあたると「低温度」と「高温度」という温度範囲がわかりにくい言葉が頻繁にでてきます。文脈上を著者の独断で判定しますと、寒暖計等で計測できる温度を「低温度」、それ以上の温度を「高温度」と区別しているようです。低温度の範囲は-30℃~350℃で、水銀温度計の指示温度に対応しています。水銀を高圧封入した温度計は上限を650℃まで使用できます。650℃以上の高温度は、計測方法がない時代では炉内の火炎の状態を目視することによる経験的方法で判断していたようです。

水銀温度計について  むかしの体温計や気温計は水銀を封入したものがほとんどを占めていました。著者にも馴染みあるものでした。温度計測すると目盛りが打たれた細いガラス管の中を水銀の柱は行き来します。これは水銀の熱膨張を利用しています。-30℃~350℃の温度計測範囲は水銀のもつ融点と沸点の間に対応しています。熱を受けると万物は膨張すること(熱膨張挙動)をVol.4で話題に挙げましたが、水銀の熱膨張挙動は大気圧の変動でも影響を受けにくいため、気圧に変換して表示する誤差が少ない特徴があります。信頼性の高い温度表示計で工業、医療、教育など多くの分野で利用されてきました。しかしながら皆様ご存じのように、水銀には毒性があります。水銀を利用した製造物の製造や販売が2013年、国際的に禁止されました。ただし、標準化等に利用する高精度な計測が要求される温度計はいまも水銀を利用しています。諸刃の剣のようで、何事にも効果が高く有用なものほどその裏側に棘をもちます。蛇足ですが、赤く色のついた液体が昇降する温度計には着色された白灯油が使用されています。

ゼーゲルコーンまでの道のり  高温温度計のゼーゲルコーンは一朝一夕に発想されたものではありません。では、どのような背景があったのでしょうか。以下は「野口長次, 窯業協会誌, 58, (1950) 363-366.」を抜粋参照してまとめます。図まで引用することはできないため、文字のみの説明となり申しわけありません。

  • 18世紀初め、ウェッジウッド(英国磁器メーカーの祖)は粘土鉱物が高温度で焼成されると収縮することに着目し、この収縮現象と温度の関係を利用した高温度計を開発。約580℃から約72℃刻みに240個の目盛りが存在し、17914℃まで表現できた(後にこの測温は正しくなかったことがわかっています)。
  • ハインツは磁器の釉薬の成分に着目して、釉薬と似たようなガラス質材料を調整した。その材料が溶けたときの温度をもって炉内温度を測定しようと試みた。ガラスの融解、結晶化の挙動を利用した測温形態ですが、おそらく1300℃以上の温度には適用できなかったと考えられ、実用化に至っていません。しかし、これらは釉薬の発展あるいはロウ付け等のフリットの成分開発に役立ったものと思われます。
  • ホルドクロフトは粘土混合物の成分とそれらの軟化温度に着目した高温度計を発明します。粘土成分と温度との関係が資料として残っていないようです。この発想が溶倒温度の発明につながる端緒のようです。
  • ウェンガーの創出したカロライトという高温度計は細長い棒状の試験体を炉内に挿入した状態で挿入部の軟化変形による下垂状態を判定することで測温する形態です。この方法で500℃から1400℃まで測定できたそうです。

以上の事柄は炉内測温の発展に直結しませんが、調べてみると意義深いものです。

ゼーゲルコーン  前号Vol.11で窯などの炉内温度を測定するために用いられるゼーゲルコーンを紹介しました。1886年、ドイツ人化学者で陶工でもあるゼーゲル(H. A. Seger)が発明した画期的な高温温度計です。温度計といっても数値で表示されるものではありません。ゼーゲルコーンという高さ約3~6 cmの三角錐をした物体です。原料はアルミナを主体にシリカ等の他材料を所定の比率で混合します。アルミナ主体のため、2000℃まで対応できたことがすばらしいですね。形状はコーンでVol.11で記載したとおりです。コーンを立てた状態で炉に設置し、ある温度に到達し始めると原料が融解し始め、軟化したときにコーンが倒れます。倒れた温度が溶倒温度です。あらかじめ原料配合比率を調整したコーンで温度を調べておくことによって、溶倒現象を利用すると炉内温度を知ることができます。ゼーゲルがやり遂げた成果は、原料比率と溶倒温度の関係を整理したことです。さらに、600℃~2000℃までの溶倒温度を示す試料を作製して炉内測温の標準化が実現しただけでなく、現在までもその方法が継続されていることです。

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