耐火物とは Vol. 11~溶倒温度

本稿では「溶倒温度(ようとうおんど)」と題し、耐火物の耐熱性(耐火度)についてわかりやすい視点で説明します。
溶倒温度は耐火物を構成する材料がもつ耐熱性の指標となり、重要な評価基準のひとつです。溶倒とはとは字のごとく「溶けて倒れる」を意味します。溶ける状態は融点を意味すると思われるかもしれませんが、融点ではないことに注意してください。溶倒を表す適用な表現は“溶け始め”の方が的を射ていて、まとめて言うと「ある温度で材料が溶融し始めて軟化し、軟化した材料が重力よって倒れる」が最適だと思われます。イメージとして米がたくさん実った稲穂の穂先がその重さで垂れた状態を想像してもらうとわかりやすいです。なにが倒れるのか。それは試料となるコーン(corn:錐)です。錐型に成形あるいは加工したコーンを図1に示します。コーンの形状はほぼ三角錐をしていて、その寸法は日本産業規格(JIS R 2204: 1999)できっちり定められています。この規格は「耐火物及び耐火物原料の耐火度試験方法」といい、一般的に“耐火度”という評価項目として通っています。耐火物の一部から切り出して加工したり、耐火物原料を混ぜて成形したり、コーンの作り方は問いませんが、その寸法は厳格に規定されています。
図1
耐火度試験の試料となるコーンは、とりわけゼーゲルコーン(Seger Kegel:ドイツ語)といいます。ゼーゲルとはこの試験方法を考案したドイツ人化学者で陶工でもある、ヘルマン・アウグスト・ゼーゲルです(図2)。
図2
ゼーゲルはいきなり図1のようなコーンを発明できたわけではありません。発明に至るまでに前任者たちの多くの失敗があってこその功績です(この話は次回に)。1742年にセルシウスが温度計を発明してから550℃まで計測できた温度ですが、当時の窯業界において陶磁器を焼成するとき炉内温度が500℃以上であることは、当時の陶工たちは容易に体感していたようです。窯炉内の位置によって陶磁器の焼き上がりに差があったことも経験的に知っていたのではないかと思いを馳せます。「高温の炉内温度をどうやって知るか?」大きな課題でした。1886年に発明されたゼーゲルコーンはこの問題を解決しただけでなく、炉内を等しく測温する標準化試料として頒布されたようです。ゼーゲルコーンは規定速度で温度を上昇させると、指示温度でコーン先端がコーンを設置した受け台につくまで倒れるように設計されています。その様子を図3(写真はWikipediaより参照)に示します。
図3
図3右に示したコーンが倒れて状態エのように受け台に接触し、そのときの雰囲気温度が溶倒温度となります。耐火度の指標となる数値はSK番号で表され、発明当時はSK1~SK36まで1170℃~1850℃の温度を知ることができました。現在の耐火度試験はさらに高温まで発展し、SK番号42まで存在しています。耐火度試験に供されるSK26~42とそれに対応する溶倒温度を表1に示します(注:1580℃より低温のSK番号も存在します。すべて記載するわけにはいかないため詳しくはJIS規格をご覧ください)。
表1
SK値が既知のゼーゲルコーンを数種と原料開発品のコーンを受け台に並立させた状態で加熱し、開発品の耐火度を計測する方法が採られることが多いです。SK番号の決定は以下のようになります。開発品, SK27, SK28, SK29の4種コーンを並立させて加熱した。図4に示すように、SK27とSK28は溶倒し、開発品は溶倒し始めた状態、SK29はほとんど変化なしの結果でした。開発品はSK28の後に溶倒し始めたため、その耐火度はSK28相当であると決定されます。
図4